認知症について学ぶ オレンジケア Part.7 Medicine of Dementia

認知症の薬

日本で処方されている認知症のお薬は、アルツハイマー型認知症の進行を抑える目的で使用されています。使用できる種類や分量は、認知症状と生活を送るのがどれだけ困難かによって定められています。ただ、これらの薬は疾患そのものを治すものではなく、症状の進行を遅らせ、負担を軽減することが目的として使用されてます。

そして、認知症状の進行具合は人それぞれ違います。さらに、日や時間帯によって違ったり、天候などの外的要因にも左右されやすいものであり、同じ薬でも毎回同様の効果が得られるとは限りません。「以前は効いたのに」というような先入観はできる限り避けて、日々の症状を医師と相談しながら、その人にあった薬を適切なタイミングで使用することが重要です。

 

それでは主な薬を見ていきましょう。

▼コリンエステラーゼ阻害剤(AChE阻害薬)

コリンエステラーゼ阻害剤(そがいざい)は、アルツハイマー型認知症の薬として広く使用されています。記憶にかかわる神経活動を高めることで記憶や思考力の改善が期待できます。ただし、対症療法薬(表面的な症状の消失あるいは緩和を主目的とする治療法)であり、一時的な服薬で効果を永続的に維持することは困難です。

アリセプト

エーザイ株式会社
 http://www.eisai.co.jp/ir/individual/digest/point1_2.html

アルツハイマー型認知症は、主に初老期から老年期に発症し、記憶力低下、行動の変化、さらには言語障害や運動機能障害へと進行する脳の変性疾患です。発症のメカニズムはまだ明らかになっていませんが、患者様の脳内では記憶と学習に関与している神経伝達物質アセチルコリンが減少していることがわかっています。エーザイが開発した「アリセプト®」は、このアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の働きを妨げて、脳内アセチルコリン濃度を高め、アルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制する治療薬です。患者様の症状だけでなく、患者様と患者様を支えるご家族や介護者の皆様の負担を大きく軽減し、QOL(Quality of Life:生活の質)を向上させることが期待できる薬剤です。

レミニール

ヤンセンファーマ株式会社
 http://www.reminyl.jp/pts/medication/about_reminyl

レミニール®の服用をつづけることで、アルツハイマー型認知症の患者さんの「認知機能障害(中核症状)」と「周辺症状」の進行を遅らせることができる、という研究結果が出ています。これにより、患者さんご本人がいままでできていたことをつづけられるようになると期待されています。 レミニール®は、2種類の作用で効果を発揮します。アルツハイマー型認知症では、おもに記憶や学習に必要な「アセチルコリン」という脳内の神経の情報を伝える物質が減少しているため、神経の伝わり方が弱くなっていると考えられています。レミニール®は、2種類の作用によって認知症症状の進行を抑えます。 レミニール®の作用(1)アセチルコリンを増やす作用  レミニール®は、脳の神経の伝達に関わるアセチルコリンという物質を分解する酵素から守ることよってアセチルコリンを増やし、神経の伝達を促します。レミニール®の作用(2)神経の伝わりをよくする作用  さらにレミニール®は、アセチルコリンの情報を受けとる受容体と呼ばれる部分にも結合し、アセチルコリンやその他の神経の情報を伝える物質のはたらきを活性化します。

イクセロンパッチ

ノヴァルティス ファーマ株式会社
 http://www.exelon.jp/index.html

イクセロンパッチは、アセチルコリンを分解する2種類の酵素の働きをおさえ、アセチルコリンを増やす薬です。脳内のアセチルコリンが増えると、神経細胞が活発になり、アルツハイマー型認知症の症状の進行を遅らせることができます。薬の有効成分を皮膚から吸収させるようにした新しいタイプの薬(パッチ剤)です。皮膚から血液の中に入った薬の有効成分が肝臓を通らずに、直接脳に届けられるので、飲み薬とは異なり食事や胃腸への影響が少なくなります。1日1回、背中、上腕または胸の皮膚に1枚貼ります。イクセロンパッチには4種類の大きさがあります。面積が大きくなるほど有効成分の含有量(4.5mg、9mg、13.5mg、18mg)が多くなります。4.5mgから開始し、徐々に大きいサイズにしていって、18mgの大きさで治療を続けます。 主治医の指示にしたがって、決められた大きさのイクセロンパッチを使ってください。

リバスタッチパッチ

小野薬品工業株式会社
 http://www.ono.co.jp/patient/medicine/

脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素の働きを抑えることにより脳内アセチルコリン量を増加させ、神経の情報伝達を促進することで、記憶障害(物忘れ)、見当識障害(時間や場所の認識の問題)、判断ができにくくなるなどの認知症の症状進行を遅らせます。アルツハイマー型認知症の症状の進行抑制に用いられるお薬です。

 

▼NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体拮抗薬)

グルタミン酸受容体の一種で、記憶や学習、また脳虚血(脳の血液が不足し、脳組織に十分な酸素、栄養が供給されない状態)後の神経細胞死などに深く関わる受容体であると考えられています。

メマリー

第一三共株式会社
 https://www.medicallibrary-dsc.info/di/faq/memary.php

※ メマリーの特徴は以下の通りです。世界で唯一のNMDA*受容体拮抗を作用機序とする(中等度及び高度)アルツハイマー型認知症治療剤です。過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化を抑制することにより、神経細胞保護作用(in vitro)及び記憶・学習機能障害抑制作用(ラット)を有します。認知機能障害の進行を抑制し、言語、注意、実行及び視空間能力などを改善します。攻撃性、行動障害、妄想観念及び幻覚などの行動・心理症状を改善又はそれらの進行を抑制します。薬物代謝酵素P450による代謝の影響を受けにくい薬剤です(in vitro)。国内における承認前の臨床試験において、1,115例中408例(36.6%)に副作用が認められました。*NMDA(N-meyhyl-D-aspartate)受容体:中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のサブタイプの一つで記憶や学習に関与するとされます。アルツハイマー型認知症ではこの受容体が過剰に活性化し、持続的な電気シグナルが増幅されるため、神経伝達シグナルが伝達され難くなっていると考えられています。
アルツハイマー型認知症の患者さんでは記憶や学習に関与する中枢のグルタミン酸神経系に機能異常が生じています。グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体(イオンチャネル)が過剰に活性化すると、神経細胞は余剰なCa2+(カルシウムイオン)の流入により傷害され、同時にシナプテックノイズ(持続的な電気シグナル)の増大により神経伝達シグナルが隠されてしまうため記憶や学習が障害されます。 メマリーはNMDA受容体と結合することで、過剰な活性化を抑制し、神経細胞保護作用及び記憶・学習機能障害抑制作用を示します。

 

副作用として、吐き気や嘔吐、食欲不振、下痢、腹痛などの消化器症状がありますが、胃腸薬や吐き気止めで対処できますので医師とよく相談してみてください。服薬の際には、患者さんの様子を注意深く見守るようにしましょう。

 

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