認知症状について

認知症というのは一つの病名ではなく、認知症が起る要因もさまざまです。多くの場合は脳の病気であり進行性で、日本では従来より血管性認知症が最も多いといわれていましたが、最近はアルツハイマー型認知症が増加しており、認知症の原因となる主な疾患には、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患(細胞や組織などが徐々に変質して機能を失う疾患の総称)などがあります。
脳血管障害の場合、画像診断で微小病変(体内に残存すると考えられる腫瘍細胞・病変)が見つかっているような場合でも、これらが認知症状の原因になっているかどうかの判別は難しく、これまでは脳血管性認知症と診断されてきたが、実際はアルツハイマー病が認知症の原因となっている、いわゆる「脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症」である場合が少なくありません。
それでは、代表的な認知症疾患を見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
≫ 認知症患者の40~60%
最も多いパターンで、短期記憶障害(もの忘れ)から始まる場合が多く、他の主な症状としては、段取りが立てられない、気候に合った服が選べない、薬の管理ができないという症状があります。緩やかな進行と、神経症候は伴いません。脳血管性認知症
≫ 認知症患者の10~20%
脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などによって、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れたりすることで発症します。記憶障害や言語障害などが現れやすく、アルツハイマー型と比べて早いうちから歩行障害も出やすい認知症状です。(びまん性)レビー小体型認知症
≫ 認知症患者の15~20%
幻視や認知機能の急激な変動が起こる認知症状で、筋肉のこわばりや震えなどのパーキンソン病の症状も伴い、認知症状を合併したパーキンソン病との境界はあいまいです。認知症を伴うパーキンソン病
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パーキンソン病は、高確率で認知症を合併し、研究によるとパーキンソン病患者の認知症を発症するリスクは健常者の約5~6倍と見積もられています。前頭側頭型認知症
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会話中に突然立ち去る、万引きをする、同じ行為を繰り返すなど、性格変化と社交性の欠如が現れやすい。かつてはピック病と呼ばれていた神経変性疾患です。
「中核症状」と「行動・心理症状」 二つの症状

認知症状には、さらに中核症状と行動・心理症状の二つの症状があります
中核症状
中核症状とは、脳の神経細胞が死んでいくことによって直接発生する次のような症状で、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
(1)記憶障害
新しいことを記憶できず、ついさっき聞いたことさえ思い出せなくなります。さらに、病気が進行すれば、以前覚えていたはずの記憶も失われていきます。(2)見当識(けんとうしき)障害
見当識(現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握すること)に支障が起こり、まず時間や季節感の感覚が薄れ、その後に迷子になったり遠くに歩いて行こうとしたりするようになります。さらに病気が進行すると、自分の年齢や家族などの生死に関する記憶がなくなります。(3)理解・判断力の障害
思考スピードが低下して、二つ以上のことが重なると話している相手が誰かわからなくなるなど考え分けることができなくなるほか、些細な変化やいつもと違うできごとで混乱を来す、などの症状が起こりやすくなります。例えば、倹約を心がけながら、必要のない高額商品を購入したり、自動販売機や駅の自動改札・銀行ATMなどの前でまごついたりしてしまうようになります。(4)実行機能障害
買い物で同じものを購入してしまう、料理を並行して進められないなど、自分で計画を立てられない・予想外の変化にも柔軟に対応できないなど、物事をスムーズに進められなくなります。(5)感情表現の変化
その場の状況がうまく認識できなくなるため、周りの人が予測しない、思いがけない感情の反応を示すようになります。
行動・心理症状
本人がもともと持っている性格や人間関係、生活環境と、現在の状況とがからみ合って起こる、うつ状態や妄想といった心理面・行動面の症状です。
主な症状例
「能力の低下を自覚してしまう」
≫≫ 元気がなくなって、引っ込み思案になる「今まで普通に出来たことが出来なくなってしまう」
≫≫ 自信を失い、すべてが面倒になり消極的に「自分の行動を忘れてしまう」
≫≫ 他人に盗られたなどの被害妄想「冷静な判断力がなくなってしまう」
≫≫ 事実のない財産を取られるなどといった過剰な訴えや徘徊
なお、認知症状は遺伝によるケースは稀であり、さらに40代の働き盛りの世代でも発症するおそれもあることから、誰にでも起こりうる病気と言えます。
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